仏壇にお祀りするご本尊と掛け軸について

仏壇は、ご家庭の中にある小さなお寺であり、そのデザインも寺院を模したものとなっています。お寺に出向かなくても仏様にお参りできるよう、ご本尊や掛け軸を祀ってあるのが本来の姿なのです。
近年ではライフスタイルの変化につれて、仏壇のサイズが小さくなったりシンプルになったりする傾向があります。ご本尊や掛け軸をお祀りするスペースのない仏壇もみられるようになりました。
一方で「本来のお祀りの様式を踏まえた仏壇を購入したい」「洋風の家に合う仏壇を購入したいが、お祀りをないがしろにしたくはない」と考えるお客様も多くいらっしゃいます。
そこでこの記事では、かつて仏壇に必ずお祀りされていたご本尊と掛け軸について解説します。
この記事を読めば、本来のお祀りのかたちがわかり、皆様が日々のお祀りで大切にしたいことを生かしてご供養を行うことができます。

1.仏壇のご本尊とは?掛け軸とは?

この章では、仏壇にご本尊や掛け軸をお祀りする意味や、宗派によるご本尊や掛け軸の違いについて解説します。

仏壇にご本尊をお祀りする意味

そもそも人は、なぜ仏壇に手を合わせるのでしょうか。
仏壇はお寺を模しているとはよくいわれることです。そのデザインには、さまざまな部分に寺院建築のモチーフを見ることができます。しかし、お寺が人々の信仰を集めているのはそれぞれのお寺にご本尊がいらっしゃるからです。寺院建築や仏壇は、仏様をお祀りするための場だからこそ、よい材料を使い美しい装飾を施しているのです。
日頃仏壇に手を合わせている人の中には、ご本尊を意識せずにお参りしている人もいるかもしれません。しかし、故人やご先祖様へのご供養を突き詰めていくと、根底には仏教の教えがあることがわかります。
故人やご先祖様の来世での幸福を祈り、自分達を見守ってほしいと願う気持ちがあるなら、やはり仏壇にはご本尊をお祀りするべきでしょう。

仏壇にかける掛け軸の意味

仏像と掛け軸は同等の意味があります
仏像の姿をしたご本尊と同じ意味合いを持つものが、掛け軸に描かれたご本尊です。
ご本尊である仏像の左右(脇尊)に掛け軸に描いた仏様や開祖をお祀りする場合や、ご本尊も含めて3幅の掛け軸をお祀りする場合があります。
「掛け軸」と聞くと、季節折々の花鳥風月を描いた絵を思い浮かべる人は多いものですが、掛け軸はそもそも、仏様を描いたものを掲げ礼拝するためのものでした。掛け軸のご本尊も仏である点では仏像のご本尊と同等であり、決して略式のものではありません。
ただし、仏壇のサイズにより、安置できるご本尊がおのずから限られる場合があります。
どんなサイズの仏壇を求めるかによって、ご本尊を仏像にするか掛け軸にするかを検討するとよいでしょう。
費用の点で述べると、仏像は掛け軸よりも材料費や製作のコストがかかるため、より費用が高い傾向があります。
ただし、仏師や絵師が手がけたものは仏像も掛け軸も美術品としての価値が生じ、どちらも高価な場合が多いです。
なお、ご本尊の左右は、ご本尊を補佐する仏や宗派の開祖をお祀りするのが正式です。
これは「脇尊(わきそん)※と呼ばれます。ご本尊が仏像でも脇尊は掛け軸にすることが多く、また、脇尊を置かずご本尊だけお祀りする場合もあります。
※脇侍(わきじ)とも呼ぶ

2.宗派によるご本尊・脇尊の違い

宗派によって、お祀りするご本尊と脇尊は変わります。
仏像であるか掛け軸であるかより、宗旨に則ったご本尊と脇尊を選ぶことが重要です。

宗派によるご本尊と脇尊
仏壇にお祀りするご本尊・脇尊の形式は、宗派によって異なります。さらに、同じ宗派でも地域や流派によってお祀りの様式が変わることも珍しくありません。
以下に紹介するお祀りの形式は一例としてご覧いただき、正確にはご親類や菩提寺に確認するのが確実です。

一覧表

ご本尊 脇尊
天台宗 阿弥陀如来、釈迦如来など 伝教大師(左)、天台大師(右)
真言宗 大日如来 不動明王(左)、弘法大師(右)
浄土宗 阿弥陀如来 勢至菩薩(左)、観音菩薩(右)
浄土真宗本願寺派(西本願寺派) 阿弥陀如来 蓮如上人(左)、親鸞聖人(右)
浄土真宗大谷派(東本願寺派) 阿弥陀如来 九字名号(左)、十字名号(右)
臨済宗 釈迦如来 観音菩薩(左)、達磨大師(右)
曹洞宗 釈迦如来 瑩山(左)、道元(右)
日蓮宗 大曼荼羅日蓮 大黒天(左)、鬼子母神(右)

天台宗のご本尊
天台宗では、その姿をさまざまに変えて人間(衆生)を救ってくださる、と教えています。元の仏はひとつであるため、特定の仏様がご本尊と決まっているわけではありません。
仏壇にお祀りする場合は、阿弥陀如来や釈迦如来をご本尊としてお祀りすることが多いです。また、阿弥陀如来をご本尊としてお祀りする場合、お座りになった姿をしていることが特徴です。
天台宗の脇尊
ご本尊の右に天台大師、左に伝教大師をお祀りします。天台大師とは中国天台宗の開祖である智顗(ちぎ、智者大師ともいう)を指し、伝教大師とは日本に天台宗を伝えた最澄(さいちょう)を指します。
真言宗のご本尊
真言宗の仏壇では、ご本尊として大日如来をお祀りします。
真言宗の脇尊
ご本尊の右に真言宗を日本に伝えた弘法大師を、左に不動明王をお祀りします。
不動明王は真言宗特有の仏で、大日如来の化身ともいわれています。
浄土宗のご本尊
浄土宗の仏壇では、ご本尊として阿弥陀如来をお祀りします。阿弥陀如来は命あるものを皆救ってくださる仏であり、救っていただくために「南無阿弥陀仏」と唱えればよい、というのが浄土宗の教えです。
浄土宗の仏壇にお祀りする阿弥陀如来は、すぐに衆生を救えるようにと立ち姿でいらっしゃいます。また、光背(仏様の後ろに差している光)は頂点が少しとがった舟形の形をしているのが特徴です。
浄土宗の脇尊
ご本尊の右に観音菩薩 左に勢至菩薩をお祀りします。
観音菩薩は阿弥陀如来の慈悲の心を表し、勢至菩薩は阿弥陀如来の深い智慧を表すとされています。
右の脇尊には中国における浄土宗の開祖とされる高祖全道大師を、左に日本における浄土宗開祖である法然上人の像をお祀りする場合もあります。
浄土真宗本願寺派(西本願寺派)のご本尊
浄土真宗本願寺派(西本願寺派)のご本尊は、阿弥陀如来です。浄土宗と同様に立ち姿ですが、光背が光の筋となっている点が異なります。
浄土真宗本願寺派(西本願寺派)の脇尊
ご本尊の右に浄土真宗の開祖である親鸞上人を、左には浄土真宗を全国に広めた蓮如上人をお祀りします。
また、ご本尊の右に「帰命尽十方無碍光如来」の十字名号を、左に「南無不可思議光如来」の九字名号の掛け軸を掲げて脇尊とする祀り方もあります。
浄土真宗大谷派(東本願寺派)のご本尊
浄土真宗大谷派(東本願寺派)のご本尊は阿弥陀如来です。立ち姿で、光背が筋状に表現されていますが、浄土真宗本願寺派のご本尊とは光背の数などで違いがあります。
浄土真宗大谷派(東本願寺派)の脇尊
浄土真宗大谷派の仏壇では、脇尊をお祀りしない様式が一般的です。
向かって左に「南無不可思議光如来」と書かれた九字名号を、向かって右に「帰命尽十方無碍光如来」の十字名号を掲げます。
臨済宗のご本尊
座禅(只管打座 しかんだざ)などの修行で悟りを開くことを重んじる臨済宗では、特定のご本尊はありません。ただし、仏壇のお祀りでは、仏教の開祖である釈迦如来の像をお祀りすることが多いです。
臨済宗の脇尊
臨済宗には多くの宗派があり、宗派によって仏壇にお祀りする脇尊が異なる場合があります。一般的には、向かって左に普賢菩薩を、向かって右に文殊菩薩をお祀りします。
ご自身の地方や家でどのようにお祀りするべきかは、菩提寺やご親族に確認するのが確実でしょう。
曹洞宗のご本尊
曹洞宗は、座禅を組むことで仏に近づけると教える宗派で、座禅と修行を重んじる宗派です。ご本尊は仏教の開祖である釈迦如来ですが、信仰するご本尊を宗派として明確に決めているものではないため、地方や氏族によっては別のご本尊をお祀りする習わしの場合もあります。
曹洞宗の脇尊
曹洞宗の仏壇にお祀りする脇尊は、向かって左に曹洞宗瑩山(けいざん)禅師、向かって右に道元禅師をお祀りすることが多いです。
日蓮宗のご本尊
日蓮宗においては、法華経の教えが絶対であり、信仰の中心となっています。ご本尊として仏の像や画を祀ることはなく、悟りの境地を文字で書き示した曼荼羅(大曼荼羅日蓮)をお祀りします。大曼荼羅に加えて、日蓮宗の開祖である日蓮上人の像をお祀りする場合もあります。
日蓮宗の脇尊
日蓮宗では、仏教の守護神として大黒天と鬼子母神も信仰の対象としています。大黒天は向かって左、鬼子母神は向かって左の脇尊となります。

3.ご本尊・脇尊を選ぶ場合の注意点

以下では、ご本尊と脇尊を選ぶ場合の注意点をご紹介します。

お仏壇を決めてからご本尊と脇尊を選ぶ
仏壇のサイズによってご本尊、脇尊の大きさは変わってきます。
仏壇の内部に収まればいいというものではなく、ある程度のゆとりが必要です。
仏壇のサイズによっては、ご本尊だけをお祀りする場合もあるでしょう。
また、仏様にお供えする具足やお位牌など、仏壇に収めるべきものはご本尊・脇尊以外にもあるものです。
お求めになる仏壇のサイズに応じたご本尊・脇尊を選ぶようにしましょう。

地域や氏族によってお祀りの様式は異なる
宗派によるお祀りの様式以外に、地域や氏族独特のしきたりがある場合もあります。
菩提寺やご親族にお祀りの仕方を確認するのが確実でしょう。

開眼供養が必要
購入した仏像や掛け軸をただ飾っただけでご本尊や脇尊としての霊験が宿るわけではありません。「開眼供養」を行うことで初めて尊い存在となります。
開眼供養ではお坊さんを自宅にお招きし、読経をしていただきます。
お坊さんに家に来ていただく手配やお布施の準備などが必要となることを覚えておきましょう。

処分する際には魂抜きが必要
開眼供養で魂を入れた仏像や掛け軸は神性が宿っているため、やむを得ない事情で処分する場合もただ廃棄することはできません。
開眼供養の際と同様にお坊さんをお招きし、読経を行って魂を抜いてもらう「魂抜き」の儀式を行う必要があります。
魂抜きをした像や掛け軸はゴミとして廃棄して差支えないといわれています。ゴミとして捨てるのは抵抗がある場合には、魂抜きを依頼したお坊さんや菩提寺にお焚き上げを依頼することもあります。
仏具店でもお預かりしてご供養、廃棄を承っております。ご相談ください。

4.まとめ

仏壇にご本尊や掛け軸をお祀りする理由や宗派による違い、お祀りする際の注意点を紹介しました。
昨今では仏壇はよりコンパクトになり、お祀りもより簡略なものになる傾向があります。ご本尊や脇尊をお祀りしていない仏壇も増えています。
しかし、仏壇の前で手を合わせる意味を考えた時、そこに仏様がいらっしゃるのは自然なことです。お祀りの本来の意味を知り、あなたの家のスタイルに合うお祀りの形を考えてみてはいかがでしょうか。
仏壇や神棚のお祀りの仕方がわからずお困りのお客様は、ぜひ仏壇通りの仏具店にお越しください。専門店ならではの知識を持つ販売員が、お客様のお気持ちに適うお祀りができるようアドバイスいたします。

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