仏壇通り若旦那達のぶっちゃげ業界トーク 第1回

江戸時代から続く店も多い仏壇通り。若き店主たちは、ライフスタイルの変化につれて変わるお祀りのかたちに対応するべく、日々模索を続けています。
そんな彼らの本音をじっくり伺ってみました。

参加者
株式会社みす平總卸店 前田裕平
株式会社山本仏具店 山本裕基
有限会社金田商店 金田浩一

どんな仏壇・神棚を選ぶべきか

– 変容する仏壇・神棚のかたち

前田
最近、お客様が神社で購入したお宮(※)を取り付ける仕事があったんですが、扉がついていなくてお神札が丸見えなんです。どうして神様が丸見えなの?思ってしまいますよね。神社が販売しているお宮なのに、がっかりしました。本来のあるべき姿・作法が揺らぎ始めていると感じます。
※お宮=神棚のこと

山本
仏壇は揺らぐどころか崩壊しています(笑)。
仏壇は本来、仏様をお祀りするものなのですが、仏像を買わない方すらいらっしゃいますから。『お父さんお母さんには世話になったからお位牌は買うけど、仏教徒じゃないから仏像は要らない』と言われた時には驚きました。

金田
なんでもありになってきていますね。

前田
作法があまりにも本来の姿とかけ離れてしまっていることには「どうなのかな」という気持ちがあります。

山本
仏壇が今の形になって、仏像と位牌を仏壇の中に飾るようになってきたのは、実は江戸時代のころ。だから、僕らが考える「仏壇のあるべき姿」が絶対に正しいとも言い切れません。とはいえ、これまでの歴史を無視してなんでもあり、の状況はどうなのかな、と思います。

伝統的な仏壇・神棚が高い理由

– 昔ながらの仏壇や神棚は高くて手が出せない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

前田
高い神棚とリーズナブルな神棚、どう違うの?という質問を受けることが多いのですが・・・。結局は信仰心の厚みの違いではないでしょうか。尊いものには手間暇をかけてあげたいと思えば、作るのに時間がかかる。

山本
材料もですよね。希少でなかなか取れないものを使っているとか。木材だって、有名な産地の木材、しかも上等な部分を使えば当然値段は高くなります。
作る手間暇も、無断に時間をかけているわけではないんです。50年後、100年後まで修理しながら使い続けられる仏壇を作るのには、それだけの技術や加工が必要なんですね。

前田
人の想いを子の代、孫の代に引き継いでいくものだから、気軽に買い替えるものではないですよね。

混迷する現代の神棚・仏壇選び

―現代のライフスタイルや住環境の変化は、仏壇や神棚のかたちや売上に影響していますか?

山本
そうですね、影響は大きいです。
昔の家には仏間があったけど、今はマンションの方も多いし、戸建でも仏間がないお宅がほとんどです。そうなると、コンパクトな仏壇でないと置くスペースがありません。それに、洋室の部屋の中に“ザ・和”な仏壇があったら違和感がすごい。となると、彫刻がなくて塗りもシンプルな仏壇になっていきます。例えば、本来の仏壇には、扉を開くと障子の扉があるんです。でも今、障子の扉がある仏壇はほとんどありません。
大きさが小さくなり、部材も少なくなり、加工も少なくなって、リーズナブルな仏壇が主流になっていますね。

金田
住環境の変化だけではないと思いますね。仏壇や神棚にかける金額と信仰心は比例しています。信仰心がなければ仏壇にお金をかけようとは思わないわけです。

山本
確かに、漁師さんは今でも信仰心が篤く、仏壇でも神棚でもきちんとやってらっしゃる印象がありますね。大自然の中に繰り出して命がけで仕事をしている人たちは、目に見えない力に対する畏敬の念を今でも持ち続けているのでしょうね。

前田
生まれ育った環境の影響も強いですよ。
この前、髪を金髪にして見た目はいかにも今時の若者、っていうご夫婦がいらっしゃったんですが、『おばあちゃんが神棚は祀れって言うから』って神棚を購入されました。
家族に信仰心があれば、その子供も神様に対する考え方はしっかりしている印象があります。

現代人は仏壇・神棚の正解を知る機会がない?

金田
そもそも、何が正しくて何がダメなのか、お寺や神社が教えなくなりましたね。お寺や神社と接する機会も少ないし。

山本
特に都会では、お寺は敷居が高いというか、気軽に入って話を聞きづらいという印象を持っている人が、多いみたいですね。

金田
昔は仏壇を買うっていったら、まずお寺に相談して、それから仏壇屋に行く流れがあったと思うんです。今は、直接仏壇屋に相談に来られる。仏壇屋でまちまちなことを言われて、ネットに書いてあることもまた違っていて、お客さんはどんどん混乱してしまう。

山本
唯一の正解がないのって、おかしなことじゃないと思うんですよ。宗派や地域、お坊さんによって考え方が違いますし。自分に身近な、菩提寺のお寺さんや親しくしているお坊さんに『こうするといいですよ』って言ってもらうのが、その人にとっての正解なんじゃないかな。仏具屋の僕らとは違う立場でのアドバイザーがいるのがベストなんですけどね。

金田
本来であれば、お施主さんとお寺さんが打ち合わせをして、『こういう風に作ってください』って仏具屋に依頼するべきものですよね。今のお客様に強制的に『こうしなさい』って命令することはできないかもしれないけれど、『うちの宗派はこういうやり方ですよ』と、もっとわかりやすく教えてあげてほしいですね。
僕たちは『こうしたほうがいいんじゃないですか』とは言えるけど、正解は言えない。

山本
でも、どこのお寺やお坊さんともご縁がないお客様が金田商店さんとご縁ができたなら、金田さんのアドバイスが正解になる。正解って、そんなものじゃないですかね。

現代風の神棚や仏壇に対する気持ち

金田 伝統も守っていきたい僕らとしては、難しいですよね(笑)

前田
見る角度ですよね。ご先祖様を想う心を中心にすれば、どんな形でもOKともいえます。でも、本来の格式や作法、それを忘れ去ってもいいのかどうか。
僕は、壁かけタイプの簡易なのが欲しいといって来店するお客様には、本来の神棚はこういうものですよ、とお話ししています。きちんと説明すれば、8割のお客様はきちんとした神棚を購入していかれますよ。
そうは言っても、現代的な神棚が欲しいというお客様の声も無視できないので…葛藤はあったのですが、当店オリジナルの壁掛けタイプの神棚を発売することになりました。ただ、あくまでも略式のお宮であって、ちゃんとした作法はこちらですよ、ということは、これからもお伝えし続けようと思っています。

金田
本来の姿を知った上で、簡略化したものをお選びになるのは全然構わないです。でも、もし知らずに伝統を無視したものを購入したら、後から『こんなものを買ってしまって』とお客様が後悔するかもしれない。それではお客様に申し訳ないから、きちんとした説明は必要ですね。

前田
何も知らないので選ぶのと、知っていて選ぶのとでは違いますよね。

金田
何でもありなら、『俺の仏壇の真ん中には安室ちゃんの写真を飾りたい』っていうのもあり、になってしまいますよね。基本となる部分は誰が伝えるべきか・・・お寺さんなのか僕たちなのか、それはわからないですけれど、伝えていかないといけないと思います。

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